脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳に広く存在し、シナプスの形成や生存といった神経発生初期に関わっているだけでなくシナプス伝達の調節にも重要な役割を果たす。本研究は神経栄養因子がシナプスの発生・発達に対する作用に関して、グリア細胞がどのように関わっているかを明らかにすることを目的としている。 受精後14日から生後0日の異なる発生段階のニワトリ胚から急性小脳スライス標本(250μm)を作製した。微分干渉顕微鏡像によりマウス小脳の発生段階におけるステージと対応させた結果、受精後17日以降で分子層・プルキンエ細胞層・顆粒細胞層の3層構造となることが明らかとなった。蛍光標識分子の1分子レベルでの検出可能なライブイメージングを行うための顕微鏡システムを作成し、同時に電気生理学的実験が可能になるようここに実験装置を組み込んだ。蛍光色素cy3でラベルしたBDNF(cy3-BDNF)を細胞外液に10nMの濃度で小脳スライス標本に全体投与し蛍光観察を行ったところ、cy3-BDNFはバーグマングリアの細胞内小胞膜上に強い蛍光輝点として観察され、これらの蛍光輝点が突起に沿って移動することが確認された。継時的ライブイメージング観察を行い、バーグマングリア細胞内小胞膜上を移動するcy3-BDNF分子の動態を解析した結果、発生の比較的早い段階(E14-E17)において突起に沿って小脳皮質表面から細胞体側へ、あるいは細胞体側から小脳皮質表面側へと蛍光輝点の活発な移動が観察された。cy3-BDNF分子の順方向性及び逆方向性の移動はバーグマングリアに発現するTrkB受容体を介した輸送によるものと考えられる。これらの結果により、BDNFはバーグマングリア細胞膜上のTrkB受容体と結合しエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた後、小胞膜上を順方向性及び逆方向性に輸送されることが示唆された。
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