1.海馬白板に位置するオリゴデンドロサイトの形態学的および電気生理学的性質を検討した。1つのオリゴデンドロサイトは、錐体細胞の神経軸索と平行に走る突起を10〜30本持っていることがわかった。また、静止膜電位は平均で約一75mV、入力抵抗は約115MΩであり、脳梁や視神経に存在する成熟オリゴデンドロサイトの値とほぼ同じ値であった。 2.多形細胞層との境界近くに位置するオリゴデンドロサイトは、海馬の神経活動に強く反応することがわかった。具体的には、電気刺激に対し時間的にかなり遅い反応を示し、減衰時定数は平均で2.53ミリ秒であった。反応の立ち上がりも著しく遅いことから、通常のシナプス伝達による反応ではなく、拡散してくる神経伝達物質に反応していると示唆された。 3.2の電気刺激による反応は以下の複数の機序で生じていることが分かった。 (1)NMDA型およびnon一NMDA型グルタミン酸受容体(上記の通り拡散による)。 (2)内向き整流性カリウムチャネル(電気刺激によって多数のニューロンが活動電位を発生するため、細胞外カリウムイオン濃度が増加する)。 (3)記録しているオリゴデンドロサイトが髄鞘を形成している軸索を伝導する活動電位。 4.錐体細胞の軸索とオリゴデンドロサイトとの位置関係を知るために、両者にバイオサイチンを注入して検討した。約5分の1の確率で軸索とオリゴデンドロサイトの突起領域が重なっズいる組み合わせを得ることができた。 以上のことにより、オリゴデンドロサイトは海馬の神経活動を受容することが明らかになった。また4の結果から、今後の研究において、活動電位の修飾効果を検討することができると考えられた。
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