研究概要 |
本研究は、神経筋接合部の細胞外マトリックス分子欠損症に対する遺伝子治療法の開発を行った。先天性筋無力症候群の中で、collagen Q (Co1Q)欠損による終板アセチルコリンエステラーゼ(AChE)欠損症は、それに対する治療法が全く存在せず、致死的な経過を辿ることが多い。 筋肉組織への親和性が高いアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターsenotype 8を介してCOLQ遺伝子をCo1qノックアウトマウスの骨格筋細胞に導入した。静脈から全身投与したところ、顕著な運動機能の回復が見られ、疲労試験においても野生型と同程度の良好な成績だった。治療マウスの骨格筋の組織切片において、神経筋接合部にCo1Qが集積しAChE活性があることが確認できた。また、ショ糖勾配遠心法により、治療マウスの骨格筋中には、未治療群では見られなかったA_4, A_8, A_<12> forms AChE-Co1Qが検出された。さらに、治療マウスの微小終板電位(MEPP)減衰時間が正常に近づいており、シナプス部位において、シュワン細胞のシナプス終末の被覆が正常化していることが電子顕微鏡で観察された。以上の結果から、AAV8を介したCOLQの遺伝子導入により、発現したCo1QがAChEと複合体を形成し神経筋接合部に係留すること、また治療マウスは、運動機能テストから筋無力症状が正常値まで回復したことが明らかになった。 細胞外分子は、生体内で遺伝子導入された細胞の割合が低くても自らの細胞外集積により、伝達・補充することで十分量を獲得でき治療効果が現れると考えられる。
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