サル類を用いた研究において麻酔の重要性は高く、質の高い麻酔をおこなうことは、動物福祉的配慮であるとともに、実験データの質を向上させ、研究の精度を上げることとなる。プロポフォールは作用時間が短く、導入・覚醒が迅速であるため、持続投与により麻酔維持が可能で、麻酔深度および時間の調節がしやすい。ヒトでは主流の麻酔薬であり、サル類においても侵襲の高い開頭術などを行う脳神経科学研究などに適した麻酔であると考えられる。しかし、サル類を対象としたプロポフォールの投与に関する研究の報告はほとんどなかった。本研究の目的は、サル類におけるプロポフォールの基礎的な薬物動態学的、薬力学的研究を行い、プロポフォールを用いた全静脈麻酔法の有用性と実用化の可能性を検討することであった。 本研究では、健康なニホンザル4頭を用い、プロポフォールの静脈内単回投与時の鎮静効果と、呼吸数・心拍数に対する影響を検討した。さらに、プロポフォール投与後の血中濃度を経時的に測定し、その薬物動態を検討した。それらの結果をもとに、サル類におけるプロポフォール投与のシミュレーションをおこない、投与方法について検討した。シミュレーションの結果より、適切であると考えられた投与方法を用いてニホンザルを麻酔し、その有用性を検討した。さらに、実際の脳神経科学研究目的のMRI撮像や開頭術の際にプロポフォールを用いて麻酔をおこない、プロポフォールの血中濃度の変化、麻酔の質、および呼吸循環動態に対する影響を評価した。 本研究の結果、ニホンザルにおけるプロポフォールの薬物動態パラメータが得られた。シミュレーションの結果から適切であると考えられた投与方法によって、実際のニホンザルにおいても良好な維持麻酔が可能であった。MRIや手術の際の麻酔も安定しており、脳神経科学研究者からの評判もよく、麻酔法の選択肢のひとつとなることが示唆された。
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