小型魚類であるゼブラフィッシュは優れたモデル動物として盛んに用いられているが、近交系がなく、この点が遺伝学を適応する上で大きな弱点となっている。そこで本課題ではゼブラフィッシュの近交系の樹立を目指すと共に、ゼブラフィッシュにおける近交退化の強さを見極めることを目的としている。 ゼブラフィッシュ野生型のIndia系統およびTubingen系統の2系統から近交系の樹立を試みた。Tubingen系統については重篤な近交退化が出現し、昨年度中に絶えてしまった。しかし一方のIndia系統では、多少成熟に時間がかかるなどの弱い近交虚弱が観察されるものの、順調に兄妹交配を進められた。現時点で20世代目にあたる魚、すなわち近交系の定義を満たすゼブラフィッシュを飼育中である。随時遺伝マーカーによるモニタリングも行っており、コンタミネーションもなくホモ化が進んでいることを確認している。さらに、個体間の鱗移植により14世代目の時点で免疫拒絶反応が認められず、近交系の利点の1つである成体の個体間移植が可能なことも検証できた。また本研究を通じ、ゼブラフィッシュにおける近交退化は鳥類ほどには強くはないが、メダカよりも重篤であり、マウスと同程度あるいは若干弱いことが示唆された。すなわち、ゼブラフィッシュにおける近交系の樹立は、ある程度の労力はかかるが可能であると考えられた。 さらに、遺伝学的解析に近交系を用いるには複数系統が必要であることから、今年度より新たな野生型系統の近交系化も開始した。用いたのはよく知られた系統であるABである。現在3世代目の飼育を行っている。
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