小型魚類であるゼブラフィッシュは、実験発生学的手法・分子生物学的手法・遺伝学的手法を用いることのできる優れたモデル動物である。しかし、ゼブラフィッシュには近交系がなく、この点が遺伝学を用いるモデル動物として大きな弱点となっている。近交系が未だない理由として、鳥類のように近交退化が激しいため近交系ができないという意見と、10年近くかかる地道な仕事であるため誰も真剣に試みていないという意見があり、いずれが正しいのか定かではないのが実情である。本研究課題では、20世代の兄妹交配を重ねてゼブラフィッシュ近交系の樹立を目指すと共に、ゼブラフィッシュにおける近交退化の強さを見極めることを目的とする。 近交系はゼブラフィッシュの野生型2系統(Tubingen系統・India系統)からの樹立を試みる。各世代5ペアから採卵して産卵数・受精率・死亡率・発生異常の有無のデータを取得し、最も良いペアの仔魚から次世代のペアを作成する。以上を20世代繰り返すことで近交系を樹立する。尚、孫の代が問題なく産卵することを確認した後に、各ペアをエタノール固定して保存する。 また、遺伝マーカーを用いてホモ化の様子をモニタリングする。これは、近交系樹立におけるトラブルの代表である魚のコンタミネーションに備えた確認作業である。最初に、0世代目のペアでなるべくヘテロ接合になった遺伝マーカーを染色体1本につき2個選択しておく。このマーカーセットにより、次世代へと継代する候補ペアの遺伝子型決定を行い、コンタミネーションがないことを確認した後に継代に用いる。万が一、コンタミネーションが起きていた場合には、前の世代に戻って継代をやり直す。
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