研究概要 |
真性大動脈瘤手術の中でも大動脈基部拡張症に関しては, 血管および弁を同時に置換する方法, または弁を温存し血管のみを置換する2つの方法があるが, いずれにおいても, 置換された大動脈基部の形状には, 健常者が有するバルサルバ洞が存在せず, 主流方向に直交する断面形状は単純な円形である. 本研究では, このことが置換した弁または温存されたnativeの弁に与える影響に着目し, 術後の形態変化を比較するためのモデル実験および数値シミュレーションを実施した. 形態モデルは解剖学データを利用しCADにより作成し, CAM/CAEを活用することで解析を行った. 得られた結果により, 弁や血管壁に作用する応力を定量的に評価することが可能であった. これらの情報をもとに, 自家組織から構成される代替弁であるバイオバルブなどの人工心臓弁の最適形状を提案することが可能となった. また, 使用した弁形状のCADデータを元に, CAMを使いコンピュータシミュレーションと同じ形状の大動脈弁モデルを作製し, 弁膜周りの血流および血管壁・弁膜の変形に関する生体外模擬実験を行ったところ, 弁膜およびバルサルバ洞付近の壁ずり応力に大きな分布が見られ, 特に心拡張期にずり応力が大きくなる部位と大動脈弁硬化症の発症部位が, 一致することが分かった. また, 弁膜の根元部分は, 心拡張期における弁膜全体の沈み込みによって, 引張りひずみが大きくなっていた. 以上のことから, 硬化病変発症部位と心拡張期に血圧によって弁膜に生じた引張ひずみ, および血流によって弁膜表面に作用した壁ずり応力分布に, 大きな相関が見られた. 特に, 弁膜組織に引張り応力が作用することで, 弁膜を構成する組織が損傷していることが考えられるため, 今後3次元的に弁膜の変形と流れ場を詳細に測定する必要があると考えられる.
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