本年度は、海綿骨中の伝搬特性を解明することを主たる目的として研究を行った。その具体的な内容は以下の通りである。 1.層状構造を有する海綿骨ファントム中の超音波伝搬の実験的観測:海綿骨の骨梁構造を層状構造に簡略化したファントム(疑似試料)を作製し、ファントム中の超音波伝搬の観測を行った。このファントムを用いた実験によって、骨梁の配向方向に海綿骨中を伝搬する超音波(高速波・低速波と呼ばれる二波が伝搬)は、配向方向に垂直な微細骨梁構造によって散乱・減衰することが示された。 2.三次元μCT海綿骨モデルを用いた数値シミュレーション:海綿骨の三次元X線μCT画像から数値モデルを作製し、海綿骨中の超音波(高速波・低速波)伝搬の数値シミュレーションを時間領域差分法(FDTD法)によって行った。その結果、骨梁配向に平行な主要骨梁構造は高速波・低速波伝搬に寄与するが、垂直な微細骨梁構造は伝搬を妨げることが示された。 3.新しい骨梁構造の解析方法と海綿骨モデルの開発:海綿骨の数値モデル作製に直結した新しい骨梁構造の解析方法を提案した。この解析方法によって得られたパラメータを使用して超音波的に等価な骨梁構造を有する海綿骨モデルを作製出来ることが、FDTDシミュレーションによって確認された。 超音波を用いた骨の評価(骨粗鬆症の診断)は既に実用されているが、その診断精度が悪いことが問題となっている。その要因として骨梁構造の影響が検討されており、その詳細が本研究成果1、2によって明らかとなった。さらに、成果3によって任意の骨梁構造を有する海綿骨モデルを簡単に作製出来るようになり、骨梁構造の影響に関する検討が容易になった。 尚、本年度の研究実施計画に掲げたウシの試料を用いたin vitro測定は十分に行えなかったため、来年度も継続して実施し、十分なデータ収集の後に成果を示す予定である。
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