セラミックスの中には、生体の機能を修復するために、組織に直接接して使用される生体材料として利用されている物質がある。その中でもハイドロキシアパタイト(Ca_<10>(PO_4)_6(OH)_2、以下HAと称す)の焼結体は、整形外科領域や歯科領域において、骨と結合するほどの高い生物学的親和性を示す「生体活性セラミックス」として知られ、既に骨充填材として利用されている。これまでのHAセラミックスは生体親和性や骨伝導能といった巨視的現象のみが注目され、分子レベルの微視的な変化についてはあまり解明が進んでいない。この微視的変化こそがアパタイトの特異な生体機能発現に関わっていると考えられる。そこで、これらを明らかにするために本研究を計画した。 平成19年度は、まずHAの粒子形態によるタンパク質の吸着挙動を検討するために、水熱プロセスを用いてHAの粒子形態を制御した多孔体と焼結プロセスを用いて不定形の粒子からなる多孔体を作製した。タンパク質の吸着挙動は塩基性タンパク質と酸性タンパク質の二種類のタンパク質を用いた。焼結プロセスで作製した多孔体では、塩基性タンパク質と酸性タンパク質で親和性に差はなかった。一方、水熱プロセスで作製した多孔体は酸性タンパク質に対する親HAアパタイト単結晶から構成されているためであった。さらに水熱プロセスで作製した多孔体の吸着挙動は溶液中のリン酸濃度に強く支配されていた。このことからHAの結晶形態とリン酸濃度を組み合わせることによって、細胞培養スキャホールド、タンパク質の吸着・徐放デバイスやバイオセンサーなどの生命科学デバイスへの応用が期待できる。
|