ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2、以下HApと称す)の焼結体は、整形外科領域や歯科領域において骨と結合するほどの高い生物学的親和性を示し、既に骨充填材として利用されている。HApはこれまで生体親和性、骨誘導能や骨伝導能といった巨視的現象のみが注目され、分子レベルの微視的な変化についてはあまり解明が進んでいない。この微視的変化こそがHApの特異な生体機能発現に関わっていると考えられる。本研究ではHApの結晶形態とタンパク質吸着について検討を行った。 平成20年度は、昨年度確立した水熱プロセスを用いて粒子形態を制御したHApと焼結プロセスを用いた粒子形態を制御していないHApの2種類を用いて、中性付近で正と負に帯電するタンパク質(それぞれ塩基性タンパク質、酸性タンパク質)に対する吸着挙動について重点的に検討を行った。1種類のタンパク質を含む溶液では、水熱プロセスを用いて作製した柱状のHApは酸性タンパク質に対する選択性が向上していた。これは結晶形態が柱状となることで、酸性タンパク質に対する吸着サイトが増加したためであった。一方、柱状結晶では塩基性タンパク質に対する吸着サイトが減少しているにもかかわらず、吸着する現象が認められた。これは酸性タンパク質に対する吸着サイトにリン酸が関与して塩基性タンパク質が吸着したものと推測できた。さらにHApの結晶形態の違いによるタンパク質の吸着挙動の違いは2種類のタンパク質が共存する溶液中においても確認できた。このことは結晶形態の違いが生体内や細胞培養中においても現れ、細胞活動へ影響を及ぼすことを示唆している。 このようにHApの結晶学的な差異がHApの特異な生体機能の発現を増大させ、その理解の鍵になると考えられる。
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