HGF遺伝子を導入した細胞を作成した。その細胞と温度感受性培養皿を用いて、細胞のみから構成されるHGF徐放中皮細胞シート(HMCS+HGF)の作成に成功した。このHGFの放出は、HGF遺伝子無の細胞シート(HMCS)ではHGFの放出が0pg/mlであるのに対して、HMCS+HGFでは約240pg/mlであり、文献値のラット腹膜中皮細胞での80pg/mlの約3倍を示した。よって、本手法はin vitroで安全に遺伝子導入した細胞を用いたシート作製が可能であることを示唆する重要な知見であり、遺伝子導入と組織工学を組み合わせた意義ある手法を得ることができた。 次にヌードマウスにクロロヘキシジンを連続7日間腹腔内に投与し、中皮の脱落と腹膜の肥厚を伴う腹膜傷害モデルを新たに作成した。連日投与7日間のため、モデル作成の期間が短く評価できる特徴を有する。この腹膜傷害マウスに単離細胞、HMCS、HMCS+HGFを移植した。移植1週間後と2週間後で、単離細胞では腹膜の肥厚が軽減されなかったが、HMCSで腹膜の肥厚が軽減され、さらにHMCS+HGFでより腹膜の肥厚が軽減された。また、移植後1週間では、移植したHMCS、HMCS+HGFは腹膜内に包埋されたが、腹膜表面にホスト中皮細胞の再生が確認された。この現象については現在検討中である。これらの結果より、腹膜傷害マウスの腹膜傷害の軽減において、HMCSで効果があり、さらにHMCS+HGFで効果があった。今回開発した遺伝子導入細胞シートは、in vitroで遺伝子導入した細胞の移植効率をあげる手法であり、そのため移植後傷害部位での効果が非常に高いことを実証した。本手法が腹膜傷害に効果的である非常に重要な知見を得た。
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