本研究では、発音時に発生する空気の流れを、数値流体力学シミュレーションを用いて可視化し、音源位置に関してはPowell音源を計算することで同定し、さらに音源から発生する音が空気中をどのように伝わって遠方場まで到達するか、について明らかにすることを目的としている。さらにそれを臨床応用するため、簡単にシミュレーション結果を医療現場に配信する技術開発も並行して行っている。本年度の研究実施計画においては、2項目に区分しており、1つ目の波動方程式を用いた計算手法に関するものであるが、本年度は2重極音源に関して、格子解像度の異なるLES解析を行い、流体計算精度により流体音の予測精度の違いに関する評価をはじめに行った。その結果、7千万格子程度が必要であることが明らかになった。また、非常に大規模な流体力データを、如何に音響計算コードに渡すかに関する検討を行っている。これは、現在どのような商用アプリケーションでも実用化されていない。2つ目の3次元プリンターを用いた実態モデル作成と、それから歯科用圧接技術を用いた透明レジンによる3次元気道モデル作成に成功している。風洞実験に関しては、今年からCNRSと共同で取り組む準備を初めており、実際のヒトの口腔形状に限定するのではなく、より単純化した機械的な形状を用いた数値流体計算と風洞実験結果を対照し、多様な口腔形状に関して考慮に入れた取り組みも行ってきている。また、その成果は、共著ではあるがAcoustics08にて発表する。現在、本研究に興味を持ったCNRS研究者との国際共同研究に発展してきている。本研究を1年終えたことで、新たに重要な要素が明らかになりつつある。それは、口腔形状をある程度単純化し計上パラメータを組み合わせたモデルに関してシミュレーションを行い、それをデータベース化し蓄積することで、あらゆる口腔形状に適応可能な理論を構築することができる可能性が考えられ始めてきた。
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