ヒト摩擦音を流体力学的視点から捉え、その現象が単純に乱流から発せられる音ではなく、ある特徴をもった渦の運動から生じているという仮説を立てることができた。すなわち、正常咬合のヒトの場合、上顎前歯先端部に音源が存在し、さらに前歯角度の変化によって音源の強度、分布が大きく変化することを流れの数値計算による可視化によって明らかになった。本研究では約七千万の六面体格子を生成し、流れ場をLES解析によって算出し、前歯表面における圧力変動を求めた。表面の圧力変動のみから遠方場における圧力変動を求めた結果、低周波(四千ヘルツ)までであれば正確に求められることが分かった。さらに、三百万格子を用いて求めたLighthillテンソルの2回微会値をヘルムホルツ方程式に与え、それを有限要素法により解いた。その結果、可聴領域の音は導出されなかった。これは、小規模格子を用いたことによる4重極音源の精度不足が原因と考えられた。そこで、七千万格子の場合を試みたが、受け渡すデータが数十テラバイトを超過することになり、現実的に実行が困難であった。一方で、本研究費により、フランスCNRSとの共同研究が開始され、JSPSフェローにフランスCNRS常勤研究者が採用され、さらに、日仏共同大学院プログラムから博士課程大学院生が9ヶ月間派遣された。この研究共同では、前歯部単純形状から同じレイノルズ数の流れをLES解析によって求め、乱流インテンシティーや圧力損失などから・乱流が生じていることが明らかとなった。また、前歯部後流に壁面が沿うような場合には乱流インテンシティーの増大が見られた。
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