心筋虚血発作の履歴を非侵襲的に検出できれば臨床上極めて意義がある。虚血イベント後に局所心室拡張期弛緩速度の低下が残存して、これが虚血の履歴所見(diastolic ischemic memory)として有用であることが期待されている。本研究では、心エコー図のspeckle tracking法を用いて、動物実験で短時間強度虚血誘導後の虚血解除下で心筋壁運動の特異的変化所見を定量評価する方法を確立することを目的としている。本年度は、成犬を用いて左冠動脈を一時的に閉塞する実験をおこなった。この前後で心エコー図を記録し、speckle tracking法を用いて壁運動ストレイン、ストレインレート、移動距離を解析した。その結果、拡張期ストレインやストレインレートは検査値のバラツキが多く、一定の傾向を認めなかったものの、移動距離、すなわち収縮後心筋短縮は一定の傾向で認められ、虚血後のmemoryを反映すると考えられた。1分間の冠動脈結紮と開放では、心室性不整脈が頻発するため、30秒にて行った。虚血にさらされた時間の長さによって、虚血後の心筋弛緩能が遷延するのであれば、重症虚血とそうでないものとの鑑別が可能と考えられる。この研究結果によって、臨床面では胸痛を訴える患者において虚血性心疾患群とそうでない群とを鑑別する方法になり得ると考えられる。
|