研究概要 |
ラットの腹壁を体内外の磁石2個で挟む褥瘡モデルを作製し、圧迫後の遺伝子発現の解析を行った。磁石を使って100mmHgの圧力で、ラットの腹壁を4時間圧迫した。圧迫開始から12時間、1、3日後に、ラットを屠殺し、腹壁を採取した。対照のシャム手術群は、腹膜腔に磁石を挿入したが、圧迫を行わなかった。表皮から皮下組織までのtotal RNAを、マイクロアレイ解析とリアルタイムPCRに使用した。シャム手術群に組織学的変化はみられなかったが、磁石で圧迫した群は、真皮や皮下組織、筋層などが傷害されていた。マイクロアレイで調べた約31,000個の遺伝子のうち、圧迫12時間後に4607個、1日後に4454個、3日後には2368個の遺伝子で、発現量がシャム手術群に比べて2倍以上に増加していた。アポトーシスや炎症反応、酸化ストレスに対する反応、タンパク質分解、低酸素に対する反応に関わるものが多くなっていた。その中で炎症に関連する遺伝子を、リアルタイムPCRを用いて定量的に調べた。リアルタイムPCRでは、多くの炎症に関連した遺伝子が12時間後や1日後には増加したが、3日後には減少していた。今回、マイクロアレイにより、持続的な圧迫後の遺伝子発現を網羅的に調査し、発現量が大きく変動する遺伝子を絞り込むことができた。炎症性サイトカインが褥瘡発生に関与していると考えられるが、発現場所やそれぞれの相互作用などの詳細は不明な点が多い。今後、これらの遺伝子が、どのように褥瘡の発生に関わっているか、どの遺伝子が鍵となっているかを調べることで、より効果的な褥瘡予防と治療が行えると考える。
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