研究概要 |
本研究では、高齢者において早期に補聴器を装用することが、言語聴覚機能及び認知機能にどのように関係するのかについて継次的に検討することを目的としている。 自立生活を営む高齢者の中で、聴力の低下がみられる高齢者に対して早期の補聴器装用を希望する高齢者と、希望しない高齢者、そして聴力低下のみられない高齢者の3群に対して、聴覚・言語・認知機能に関する検査を実施し、その推移について比較検討した。検査は年に1回実施し、聴覚機能については、標準純音聴力検査による聴力測定、ことばの聴取能力に関する検査(57S語表)、中枢聴覚機能検査の中の両耳分離聴検査(小渕,2003に作成)、言語・認知機能については、知能検査短縮版(WAIS-Rのうち、言語性検査2項目、動作性検査2項目)を行った。平成22年度は、平成19年度~平成21年度の3年間で収集したデータを分析し、国際学会にて発表した上、英文の論文として投稿した。 本研究課題の成果としては次の通りである。上記3群の結果を比較すると、聴力や語音聴力については加齢と共にどの群も低下するものの、知能検査結果については、異なる傾向を示した。統計的な有意差はないものの、聴力正常群や早期補聴器装用群で、言語性及び動作性課題で低下が少ないが、補聴器装用を希望しなかった高齢者において、言語性課題の成績が年々低下する傾向がみられた。このことは、聴力低下が生じた早い段階で、補聴器を装用することで聴覚情報処理が補償・強化され、認知機能の維持につながる可能性が示唆された。本研究により、聴力低下が始まった高齢者に対しては、早期に補聴器することの意義が科学的、客観的に証明された。
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