研究概要 |
廃用性筋萎縮の治療では,運動負荷によって起こる筋損傷を予防しつつ,萎縮の早期回復を図ることが望ましい.本研究課題では熱刺激に対する筋細胞応答に着目し,運動負荷と熱刺激を併用することで,筋萎縮の治療を安全かつ効果的に実施できるのではないかと考え,動物実験モデルを用いて検証した. 1.事前の熱刺激が筋損傷に与える予防効果 4週間のラット後肢ギプス固定モデルを用いて,再荷重前の温熱負荷が,再荷重後の筋損傷の発生に与える影響について検討した.その結果,4週間のギプス固定によって,ラットヒラメ筋に廃用性筋萎縮が惹起されること,その後の再荷重によって筋損傷が発生し,再荷重開始から3日目に最も筋損傷の程度が強いことを確認した.一方,再荷重開始から2日前に温熱負荷を行ったラットヒラメ筋では,再荷重から3日目の筋損傷の発生が軽減しており,再荷重前の温熱負荷によって,再荷重後の筋損傷の発生を軽減できる可能性が示唆された.また,再荷重前に温熱負荷を行ったラットヒラメ筋では,再荷重開始時に強いHSP70の発現を認めたため,このメカニズムに,Hsp70の発現が関与している可能性が示唆された.しかし,再荷重開始から5日目では,温熱負荷を行ったラットヒラメ筋において,新たな筋線維損傷の発生が疑われる所見が得られたため,再荷重前に行う1度の温熱負荷だけでは,再荷重後に繰り返し与えられる伸張負荷などのストレスに対して,長期的な効果は得られない可能性が推察された. 2.温熱負荷と運動負荷の併用が廃用性筋萎縮の進行に与える抑制効果 2週間の後肢懸垂モデルマウスを用いて,温熱負荷と等尺性収縮運動の併用がマウスヒラメ筋の廃用性筋萎縮の進行過程に与える影響について検討した.その結果,温熱負荷または等尺性収縮運動を単独で行った場合と併用した場合のいずれにおいても廃用性筋萎縮の進行抑制効果を認めた.しかし,それらを併用することによる相乗効果は認めなかった.
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