本研究の目的は、日常場面で耳掛型メトロノーム・耳掛け型DAF装置を、成人吃音者が日常的に装用した際の、装用効果とそれに関連する要因について検討を加えることである。本年度は、前年度までに装置の装用を開始している被験者に対し、1.日常場面における発話データの収集、2.面接時のデータ収集、3.装用期間中の評価、4.装用期間終了後の評価を行い、各症例の結果から以下のことが示された。 (1)DAF装置を0msの遅延速度で、すなわち遅延なしの聴覚フィードバックで使用することを希望する症例があった。この症例は装用期間中、日常場面での有意な吃音症状の減少を認めなかったにも関わらず、自己評価においては装置の効果を非常に高く評価していた。また、OASES (Overall Assessment of the Speaker's Experience of stuttering)の結果からは、装置の継続的使用後(1年後)は、装用時・非装用時ともに、吃音の問題が軽快化したことが示された。 (2)耳掛け型メトロノームを約2年間装用した症例の評価を行った。装用期間中、日常場面での吃頻度は減少する傾向を示したものの、有意ではなかった。しかし自己評価においては、装置の効果を評価しており、特に発話速度のコントロールに有効であると評価した。WASSP (Wright and Ayre Stuttering Self-Rating Profile)の結果からは、装用により吃音の問題が軽快化したことは認められなかった。 (3)本年度評価を行った症例に関しては、装用期間中に有意な吃症状の減少が認められなかったため、当然装用後のcarry overも認められなかった。しかし、自己評価においては、装用前に比して、一定の装用期間後の非装用時は、一部吃音の問題が軽快化していると評価していた。 (4)(1)~(3)の結果より、装置の継続的使用は、(1)発話速度のコントロールに有効であること、(2)客観的な吃症状の減少に繋がらなくとも、日常のコミュニケーションの問題や生活の質を改善させうること、(3)装用による吃音の問題の軽快化が、装用後も一部持続する可能性があることが示された。
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