「シナプス前細胞からの興奮性入力とシナプス後細胞が興奮する時間的前後関係に応じて、そのシナプスの伝達効率が増強もしくは減弱する」というHebb則に基づき、経頭蓋磁気刺激と末梢神経電気刺激の2つの刺激を一定の時間差で運動野に到達するように組み合わせた連合性ペア刺激(Paired associative stimulation : PAS)によって、ヒト運動野の可塑的変化を引き起こしうることが報告されて以来、リハビリテーションの新たな手法として注目されている。しかしながら、PASによって刺激をしていない対側運動野にどのような影響があるかは明らかではない。ヒトの両側運動野は脳梁を介して連絡しており、相互に影響しあうことから、一方の運動野に生じた変化は対側運動野に影響することが考えられる。 そこで、本年度は健常者を対象にPASによって刺激をしていない対側運動野にどのような影響があるかについて検討した。一側の運動野の興奮性が増大する刺激間隔でPASを行った結果、刺激側の運動野の興奮性が増大し、逆に非刺激側の運動野の興奮性は減弱した。 脳卒中の運動麻痺治療では、障害側運動野に対して運動野の興奮性を増大させるような刺激を行い、運動機能回復を促すとともに、非障害側運動野に対して運動野の興奮性を低下させるような刺激を行い、非障害側運動野から障害側運動野への脳梁を介した抑制の減少を引き起こすことで麻痺肢の運動機能回復の改善が図られている。本研究の結果から、一側の運動野に対するPASを行うことで、両側運動野の興奮性のバランスを調整でき、脳卒中の運動麻痺治療に応用できることが示唆された。
|