研究概要 |
人間中心設計メソッドを確立し,ユーザのニーズ・体力と使用環境とに適応する歩行補助車の設計ツールを開発することを目標として,現状の問題点を抽出するヒアリング調査を行うとともに,ユーザ・歩行補助車・環境の要因を取り入れた統合的なモデルの構築と分析を行った. ヒアリング調査については,歩行補助車を使用する80〜92歳の高齢者6名に対して,普段使用していて便利だと感じる機能や,各種機能の使用頻度,日常生活で不便さを感じる機能などを聞いた.その結果,なるべく軽くコンパクトに収納できる歩行補助車が求められていること,買い物での荷物運搬や屋内での移動など複数の利用形態があることがわかった. 次に,定常歩行を対象に,ユーザ・歩行補助車・環境の要因を取り込んだ統合的な力学モデルを構築した.力学モデルは歩行補助車と前腕・上腕・体幹・下半身の4つの剛体リンクから成るユーザとから構成されており,定常歩行のために発揮する筋力や脊柱のL5/S1関節に作用する力を推定することができる.上半身や下半身の筋負担を最小とするように最適化を行い,各種条件を変えてモデルを分析することで,ユーザの負担を軽減する歩行補助車のデザインについて考察した.その結果,体幹をなるべく直立させる姿勢が望ましいが,歩行補助車の使用法はユーザの行動体力に依存することがわかった.行動体力の高いユーザは,なるべく高いハンドグリップを使用して,直立姿勢を保つようにするのが望ましい.一方,行動体力が低く前屈みの姿勢で歩くユーザは,なるべく体幹を直立させる必要があるが,低めのハンドグリップに上半身をもたれかける使用法のほうが,身体の負担が小さくなることがわかった.
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