研究概要 |
歩行補助車の人間中心設計メソッドを確立することを目標として, 前年度に開発した統合的なモデルを用いて, 摩擦係数・傾斜角などの路面条件と最適なハンドグリップ高や身体姿勢などの使用方法との関係について分析した. 分析条件は,摩擦係数の低いアスファルト舗装路と高い砂利道, 平坦路と上り坂 (0〜10[deg]) と下り坂 (-10〜0[deg]) とした. 分析の結果, 平坦路と上り坂とは同一の使用方法となり, 体幹を前傾してハンドグリップに上半身をもたれかけるような姿勢が, 最も身体負担が小さくなった. また, 砂利道など摩擦係数の高い路面では, 肩関節屈曲筋や肘関節伸展筋の負担が特に増加して, 歩行補助車の操作が困難になることがわかった. 下り坂の場合, 摩擦係数が高いと平坦路や上り坂と同じ使用方法であったが, 摩擦係数が低くなると, この使用方法では身体の筋負担が大きくなることがわかった. 筋負担を減少させるためには, ハンドグリップを高くし, 体幹を直立させる姿勢が望ましいことがわかった. 次に, モデルによる理論的な分析結果の妥当性を検証するために, ハンドグリップの配置を変えたときのハンドグリップ操作力と上肢・体幹・下肢の筋電位を測定する実験を行った. その結果, 平坦路でハンドグリップを低くすると, ハンドグリップを強く押し下げるために体幹や下肢の筋負担は減少した. またハンドグリップ-上肢-体幹系が, 強い筋力を発揮せずに平衡状態を保っているため, 肩・肘関節周りの筋負担はあまり変化しないことがわかった. 以上の研究より, 歩行補助車の有用性を定量的に実証できたとともに, ユーザの体力や環境に適応した歩行補助車の人間工学的な設計メソッドを提供することができた.
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