研究概要 |
人間中心設計メソッドの確立を目標として,理論および実験的な観点から補助車を利用した歩行動作を分析した.その結果から,軽量化によるユーザビリティ向上と安定した歩行の可能な安全性の確保とを両立させる最短ホイールベース長を求めて,ユーザのニーズ・体力と使用環境とに適応させる設計ツールの有用性を検証した.はじめに,路面の傾斜角や歩行補助車に作用する加速度を含んだ統合的な力学モデルを構築して,安全に使用可能なホイールベース長を導出した.その結果,上り坂や加速期にハンドグリップ押下力が弱くなると,安全に歩行するためにホイールベースを長くする必要があったが,急峻な下り坂ではホイールベースを短くできることがわかった.しかし,このモデルはヒューマンファクタとして,ハンドグリップ押下力と歩行補助車に作用する加速度を含んでいる.モデルの妥当性・有用性を向上させるために,ロードセルと加速度計を組み込めるように改良した市販の歩行補助車を用いて,それらを測定する実験を行った.被験者は高齢者12名とし,対象の路面はアスファルト舗装の平坦路・5[deg]の緩傾斜路・10[deg]の急傾斜路とした.その結果.女性よりも男性の方が,ハンドグリップの低い方が,さらに上り坂よりも下り坂の方が,ハンドグリップ押下力が強くなることがわかった.また,下り坂の方が上り坂よりも,歩き始めの加速度が大きくなったが,いずれの被験者・路面条件でも加速度が5.0m/s^2を超えないことがわかった.以上のデータを入力として力学モデルを再分析した結果,ユーザのニーズや体力に応じてハンドグリップ高を0.8~1.0mと可変とすべきことを考慮すると,アスファルト舗装路で安全に歩行できる最短のホイールベース長は0.38mとなった.
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