本研究は、準備していた行動をこらえる・我慢する、という、ヒトが社会生活を円滑に行う上で重要な意志決定機能を反映する前頭皮質活動を、おもにGo/NoGo課題遂行中に記録した脳波から同定することを目的としている。これまでに、前頭皮質の損傷患者や、前頭皮質機能障害が疑われる精神・神経疾患患者におけるGo/NoGo課題のパフォーマンス低下が報告されている。また、発育・発達や加齢に伴うGo/NoGo課題のパフォーマンスの変化も報告されている。それゆえ、Go/NoGo課題遂行中の脳内の情報処理過程を明らかにし、さらにそこから簡便かつ有効な、前頭皮質機能評価のための指標を確立することが、前頭皮質機能障害を扱う医学的・心理学的な見地のみならず、教育学的な見地からもきわめて重要な知見をもたらすものであるといえる。当該年度においては、単純な刺激を用いたGo/NoGo課題を遂行中の被験者から64chの脳波を記録し、おもに前頭中央部にみられるパワーと位相のダイナミクスを調べた。具体的には、記録した脳波から試行毎の瞬時位相とパワーを抽出し、(a)パワーの変化、(b)試行間の位相適合度、(b)試行内での位相の離散時間、についての詳細な検討を行った。そこから、「NoGoの意志決定」「NoGoの実行」を反映する脳活動が別の指標に反映されている可能性が示唆された。一方、脳波そのものから、視覚刺激とそれ以外の外的・内的反応に時間的に関連する波形を分離する手法を提案し、それを実際に脳波に適応可能であることを示した。これらの成果は、Go/NoGo課題遂行中の脳内の情報処理過程を明らかにする上で重要なものと考えられた。
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