本研究は、準備していた行動をこらえる・我慢する、という、ヒトが社会生活を円滑に行う上で重要な意志決定機能を反映する前頭皮質活動を、おもにGo/NoGo課題遂行中に記録した脳波から同定することを目的とした。これまでに、前頭皮質の損傷患者や、前頭皮質機能障害が疑われる精神・神経疾患患者におけるGo/NoGo課題のパフォーマンス低下、および、発育・発達や加齢に伴うGo/NoGo課題のパフォーマンスの変化も報告されている。それゆえ、Go/NoGo課題遂行中の脳内の情報処理過程を明らかにし、さらにそこから簡便かつ有効な、前頭皮質機能評価のための指標を確立することが、前頭皮質機能障害を扱う医学的-心理学的な見地のみならず1教育学的な見地からもきわめて重要な知見をもたらすものであるといえる。当該年度においては、単純な刺激を用いたGo/NoGo課題を遂行中の被験者から脳波を記録し、おもに前頭中央部にみられるパワーと位相のダイナミクスを調べた。具体的には、記録した脳波から試行毎の瞬時位相とパワーを抽出し、(a)パワーの変化、(b)試行間の位相適合度、(b)試行内での位相の離散時間、についての詳細な検討を行った。そこから、「NoGoの意志決定」がα帯域の脳波のおもに位相の急激な変化(リセット)として反映されていることを明らかにし、「Goの準備と遂行」がα帯域の脳波のパワーの低下と関連することを示した。一方、脳波から、刺激とそれ以外の外的・内的な反応に時間的に関連する波形を分離する手法を提案し、それを実際に脳波に適応可能であることを示した。また、さらにその手法を、脳波から同じ波形を抽出する手法として一般化することを試みている。これらの研究により、Go/NoGo課題遂行中の脳内過程の詳細が明らかになり、またそのための手法が他の脳波を用いた脳内過程の検討に応用できる可能性が示された。
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