本研究では小脳経頭蓋磁気刺激による下肢筋からの誘発筋電位が、錐体外路神経路とくに前庭脊髄路を介していることを明らかにする。前庭脊髄路の起始核は外側前庭神経核であり、末梢前庭受容器からの一次ニューロンの興奮性シナプスが到達する。通常、眼球が頭の動きと反対方向へ動く前庭動眼反射時に賦活されるが、視界の水平移動を追って眼球が動く視機性眼球運動(OK国)時にも同様に賦活される。本年度は、OKNを用いて外側前庭神経核を非侵襲的に賦活し、誘発筋電位が前庭脊髄路機能を反映しているエビデンスを得ることを目的とした。 健常成人を対象とした。被験者は立位の姿勢を保ち、OKNを誘発する2種類の動画課題(白地に黒の縦縞が左から右へ動く : 10°/s、30°/s)と2種類のコントロール視覚課題(固視点、静止画)を呈示した。動画課題によるOKN誘発時に小脳磁気刺激を行い、下肢ヒラメ筋から表面筋電位を記録し加算平均した。左小脳刺激を行い左ヒラメ筋からの誘発筋電位のピーク潜時を視覚課題間で比較すると、固視点と10°/sおよび30°/s、静止画と30°/sで、動画呈示時においてピーク潜時が有意に短縮した(p<0.05)。刺激と対側(右ヒラメ筋)では課題間の違いは見られなかった。一方で、右小脳刺激を行い右ヒラメ筋から得られる誘発筋電位は、固視点と10°/sで動画呈示のピーク潜時が有意に短縮した(p<0.05)。刺激と対側(左ヒラメ筋)では課題間の違いは見られなかった。 以上、OKNを誘発する視覚刺激を用いて小脳磁気刺激により刺激と同側筋に誘発される筋電位のピーク潜時が有意に短縮した。解剖学的に片側小脳から同側筋へ前庭脊髄路が下降しており、小脳刺激による誘発筋反応には前庭脊髄路が関与していることが示唆された。本研究では非侵襲的かつ定量的な非錐体神経路の機能評価法の確立に向けて、非常に意義深い知見を得た。
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