本年度は、東京府、大阪府、岐阜県、香川県、宮城県について、(1)林間学校実施の地域的要因、(2)各地域の教員らの問題意識、(3)野外教育の理論、(4)林間学校の実際と工夫について明確にすることを目的に公文書館等での資料調査を実施した。 これまでの研究成果は以下のようになる。東京府と大阪府については、大都市特有の都市問題とその影響により増加した「身体虚弱児」の健康増進を目指して林間学校が企図されていた。そのため健康増進のための学校衛生的な活動が主であり、地域性を活用した活動は少なかった。ただし、訪問先の地理・歴史など開催地について学ぶ時間を設けている。 次に岐阜県は、後に文部省学校衛生官として林間学校の普及に努めた大西永次郎が県の衛生主事をしていた。このため、同県においても主として健康回復を目指す林間学校が中心である。ただし、子どもたちの生活圏内で実施されるケースが多く、地域生活の実地学習的な側面も見受けられた。 香川県については、明治末期から「臨地教授」と呼称される地域学習が夏季に実施されていた。大正期になると、これに健康増進という目的が加えられ「林間学校」の形態をとるようになる。このため、地元の習俗や歴史を学ぶ機会も多く取り入れられており、地域性を活かした活動が多数みられた。 宮城県の「林間学校」についても「虚弱児童」の健康増進を目的とするものが多い。ただし、同県では北国という地域性を活用し、寒中水泳など冬季の野外教育が実践されていた点が特質と言える。 最後に本研究を総括すると、大正期の各府県の林間学校は主として健康増進が主であったが、地理・歴史の実地学習を通じて地域の習俗等を学ぶ機会が設定されており、地域性を活用した事例がある程度見受けられた。また、本研究により、これまで未開拓であった大正期の林間学校の全国的状況を一定程度明確にすることができたと考える。
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