本研究は、各部位の筋の運動に対する貢献の違いに着目し、各部位の筋のトレーニングおよび脱トレーニングの影響を、組織・生化学的手法を用いて筋線維レベルで詳細に調査することを目的として行った。これは、競走馬の効果的なトレーニング方法を見出し、十分なトレーニング効果を得るためには必要不可欠である。また、中殿筋のトレーニングと脱トレーニングの影響を調べた研究は、現在までにいくつか行われているが、その後の再トレーニングによる筋の再適応に関しては、ほとんど調べられていない。そこで、本研究では脱トレーニング後の再トレーニングにより、筋の各特性が脱トレーニング前のレベルまで回復するのかに関しても検討を行った。本研究で得られたデータは、負傷や故障によってトレーニングの中断を余儀なくされたウマが再起を図る際のトレーニング・プログラムに、重要な示唆を与えると考えられる。 平成21年度中には、上腕頭筋(前躯)、最長筋(体幹)、中殿筋(後躯)の4つの筋について、それぞれの筋のトレーニング効果および脱トレーニングの影響を調査した。分析に使用した筋サンプルは、前年度から継続して採取したものであり、採取の条件は以下の通りであった。 ・被検動物:2年齢のサラブレッドを6頭、3年齢のサラブレッド4頭 ・トレーニング内容:週に5日の割合で16週間の走行トレーニングおよび12週間の脱トレーニングを実施 ・筋サンプルの採取時期:トレーニング前(0週)、期間中(8週)、終了時(16週)、脱トレーニング4週目、12週目 なお、実施した分析は以下の通りであった。 ・SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法:筋線維中の収縮タンパクであるミオシン重鎖(MHC)の分離同定。また、単一筋線維の電気泳動により、トレーニングおよび脱トレーニングに伴う、タンパク発現の動態、すなわちハイブリッド線維の有無や増減についても検討する ・免疫組織化学的分析:筋線維中に発現するミオシン重鎖に基づく筋線維タイプの分類 ・組織化学的分析:筋線維ごとの酸化系酵素活性の測定、各筋線維タイプの面積・本数比の算出 ・生化学的分析:筋の有酸素性能力の指標となるTCAサイクル中の酵素、無酸素性能力の指標となる解糖系上の酵素の活性測定 ・筋中グリコーゲン濃度の測定:組織・生化学的手法を用いた、各筋線維タイプの運動への動員、トレーニングの進行に伴うグリコーゲンの貯蔵量、使用割合および回復速度の変化の測定 以上の分析によって、サンプルとして用いた各部位の筋の筋線維組成および酵素活性の特性が明らかになった。また、筋(部位)によって、トレーニングおよび脱トレーニングに対する感受性の違いがあるらしいことが示唆された。
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