スポーツ政策や「ソーシャル・キャピタルとスポーツ」について、世界的に著名なラッセル・ホイやマシュー・ニコルソンなどとの研究交流を重ねながら、以下のような論点について明らかにすることができた。 1. ソーシャル・キャピタルの議論が台頭してきた背景には、ひとつには新しい福祉国家への模索という先進諸国が抱える大きな政策課題があり、そのコンテクスト上で、スポーツクラブは、多元的で多様なコミュニティを社会的に統合するうえでの重要な場として捉えられてきているということ。 2.ソーシャル・キャピタル論に先行し、個人や集団がどのようにして行為の目的を達成していくかを研究の中心に据えた社会学的実証研究として、グラノベッターやバート、リンなどに代表される社会的資源論を中心とする動員的なソーシャル・キャピタル論があり、それらを議論の下敷きにすることで、「開発」のコンテクストにおけるスポーツの新たな視角を提示できる可能性があること。 3. ソーシャル・キャピタルの現場での活用を急ぐあまり、一時的な利益誘導によって組織化されるネットワークとは異なる次元で繰り広げられる、ドナー側の構想しえないネットワーク活用のあり方については、これまであまり検証されなかったという問題がある。かかる問題認識のもと、プロジェクトの境界線で縁取られた外側の領域にて、在地の人々がいかなるネットワーク経路でリソースを獲得するのかを追跡することに、大きな研究意義が伏在する可能性があること。 現在、彼らとの共同研究を基点に、国際的な研究フォーラムを展開する可能性も視野におけるほど研究ネットワークが構築されてきている。今後、本研究に関する研究トピックを長期的に精査していくことにより、日本におけるスポーツ政策研究の水準を大きく高めることができると期待できる。
|