スポーツがいかなる情況の中でソーシャル・キャピタルを形成するのかについて検討した。スポーツ・プログラムを通じて社会の周縁に位置する人々の間に、いかなるソーシャル・キャピタルが構築されたのかという研究は、これまでも部分的に展開されてきたが、いずれの研究もプロジェクトを実施する前と実施した後の差異を比較することで有効性を測り、そのパースペクティブはあくまでプロジェクトの枠組みから離れることはなかった。本研究では、ソーシャル・キャピタルの現場での活用を急ぐあまり、これまであまり検証されなかったプロジェクトの境界線で縁取られた外側の領域を焦点化しながら、一時的な利益誘導によって組織化されるネットワークとは異なる次元で繰り広げられる、ドナー側の構想しえないネットワーク活用のあり方について南太平洋のヴァヌアツ共和国を事例に詳細に検討した。 特別に誇れるような学歴や縁戚からの支援もなく、ことさら恵まれた雇用環境に置かれていなかった者が、いかなる経緯で雇用機会を獲得するのかについて、スポーツをめぐり築かれていく人々のネットワークから跡付けた。現地の暮らしの身近なところから間歇的に出現する、そうした特定のネットワークについては、これまでソーシャル・キャピタルの射程から主題化されることはなかったが、そこで醸成されるソーシャル・キャピタル(信頼・規範・互酬性・ネットワーク)が、彼らの生活にいかなる影響を与えているのかを焦点化しながら、現地の人々の生活戦略を水路づける特定の社会的メカニズムについて明らかにした。なお本研究の成果は、現在、国際ジャーナル誌に投稿中である。
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