研究概要 |
本研究の目的は自転車のサスペンションが中高齢者の走行安定性におよぼす影響を明らかにすることであった。実験計画では市販のシティサイクルを利用する予定であったが、購入予定の自転車が製造を終了しており入手できなかった。また、代替の物も実験に適さないことが明らかとなり、実験用自転車を新規に作製する必要が生じた。そのため実験計画に若干の修正を余儀なくされたが、サスペンション機構の完成度において当初計画以上の自転車を作製することができた。 実験では自転車のサドル下に3軸加速度計を取り付け、実験計画に沿って3cm,5cm,15cmの段差をサドルに座らせたまま下らせた。その結果15cmの段差においては、サスペンションなし条件(従来のシティサイクル相当)は、前後輪ともサスペンションあり条件と比較して最大加速度が約85m/s^2(約8.7G)大きかった。同時に記録した上腕二頭筋の筋電図からは、サスペンションなし条件は前後輪ともサスペンションあり条件と比較して段差に同期して筋活動量が大きくなる現象が確認された。すなわち、段差下降によって衝撃が加わると、サスペンションなし条件では筋活動を高めて乗車姿勢を安定させていたのに対し、前後輪ともサスペンションあり条件では乗車姿勢の安定に関連する動作の一部をサスペンション機構が代行したと推察される。 自転車運転中における上腕の筋活動は、操舵と密接に関係していると考えられる。つまり、この部位を過度に収縮させないことは操舵に柔軟性を持たせ、転倒リスクを軽減すると推察される。したがって自転車にもサスペンション機構を組み込むことは、健康増進を目的とした中高齢者の自転車利用に効果的と考えられる。次年度は今年度の結果を踏まえ、サスペンションが搭乗者にもたらす効果・影響についてより詳細に探求する予定である。
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