研究概要 |
本研究の目的は自転車のサスペンションが中高齢者の走行安定性におよぼす影響を明らかにすることであった。実験に使用した自転車は、昨年度に製作した前後輪ともサスペンションを搭載したものであった。実験は(1)サスペンションなし(従来のシティサイクル相当, N)、(2)前輪のみサスペンションあり(F)、(3)後輪のみ(R)、(4)前後輪とも(FR)、の4設定で行なった。 実験では3cm, 5cmの段差をサドルに座らせたまま乗り越えさせた。乗り越える際の速度は、8km/h, 12km/hとした。被検者は日常的に運動習慣の無い健康な女子大学生とした。これは、今回の実験設定は中高齢者にとって転倒リスクが高いと予備実験から予想されたためである。測定項目は段差乗り越え時の加速度(後輪車軸部ならびにサドル直下部)、ハンドル回転軸の角速度、上肢の筋活動量であった。 その結果、どの走行条件においてもN設定はサドル直下の加速度が大きく、最大で約98m/s^2であった。一方でR, FR設定ではN設定の67〜36%であった。同時に記録した筋電図から、N設定はR, FR設定と比較して段差に同期して筋活動量が大きくなる傾向が見られた。すなわち、段差による加速度が身体に伝わると、N設定では筋活動を高めて乗車姿勢を安定させていたのに対し、R, FR設定では乗車姿勢の安定に関連する動作の一部をサスペンションが代行したと推察される。 自転車運転中における上肢の筋活動は、操舵と密接に関係していると考えられる。とくにN設定では「(衝撃に耐えるため)腕や脚、背中に力が入ってしまう」と述べる被検者が多数いた。つまり、この部位を過度に緊張させないことは操舵に柔軟性を持たせ、自転車運転中の転倒リスク軽減に役立つと推察される。したがって自転車にもサスペンションを組み込むことは、中高齢者が安全に自転車を利用するにあたって効果的と考えられる。
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