研究概要 |
スポーツ指導文脈では,指導者による個体還元主義的な視点が支配的であり,この視点に基づく無自覚な実践が再現されている。本研究では,教授過程の改善に寄与する指導者の言語的働きかけのうち,指導者による選手の呼称に着目し,これを概観的かつ微視的に分析した。「指導は〔指導者-選手〕の相互作用によって構成される」というスタンスに立ち,頻繁に出現する指導発話の典型について分析した。具体的には,以下の作業を進めた。プロサッカーチーム下部組織の1シーズンを対象としたフィールドワーク。指導者2名と選手35名が調査者とされた。指導実践における指導発話を録音・逐語録化し,指導者による選手の呼称数をカウントした。収集された呼称数は,A指導者が1,069,B指導者が265であった。 指導者の評価に基づいて分類された選手集団(優秀層,中間層,問題層)と,指導者による呼称との間には関連がみられた。中間層は1シーズンを通してほぼ,もっとも呼称されない選手集団であり続けた。また,呼称の構成には各層ごとに特徴がみられ,このうち中間層は,「トレーニングの始点・終点あるいはコミュニケーションの対象」として,相対的に高い頻度で働きかけを受ける層であった。さらに微視的分析では,指導者の働きかけが可視化されやすいフリーズ場面に着目した。このときよくある指導者の働きかけは,〔問題層〕の問題を改善すると同時に,〔優秀層〕に働きかけを行なうことで,働きかけの妥当性を担保しようとするものであった。このとき〔中間層〕は,しばしば働きかけを受けない層であった。以上のデータから,指導者による指導が固定性を帯びており,可視化されることで,指導が相互作用的に構成されやすい可能性を指摘した。
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