研究概要 |
本研究の目的は,個体還元主義に基づく指導実践が,〔教える者-学ぶ者〕の関係性から構築されるという視点に立ち,このような指導実践のもとにある選手の学びと,それを改善する手立てについて検討するものであった。Jリーグの下部組織にあたる中学生年代のチーム(Yチーム)を,1年間にわたってフィールド調査した。調査では,トレーニングにおける指導者の発話を,ビデオ機器等によって収集した。ここで発話とは,指導者が選手名を呼びながら行うコーチングをさす。他に,指導の前後で指導者および選手に対するインタビューを実施すると共に,選手に対しては,定期的に質問紙調査を実施した。本研究は,Xチームを対象とした梅崎(投稿中)と同様の方法を用いて別のチーム(Yチーム)を調査したものであり,二度の調査によって比較される両チームの特徴および違いは,1)両チームは共に九州圏内に位置するライバルチームである,2)両チームは同じ全国大会を目標としている。調査年次,Xチームは全国大会に出場できなかったのに対し,Yチームは出場できた,といった点にある。横断的な調査であるため単純比較はできないが,XチームとYチームにおける指導者のかかわりに,スポーツ指導における教授学習過程を検討することができる。結論的にいえば,選手に対する両指導者の働きかけの違いは,Xチームにおける指導者の働きかけが偏っていた,すなわち,準レギュラー層に対する働きかけが有意に少なかったのに対し,Yチームにおける指導者の働きかけは,選手間で差がなかった点にみられた(梅崎,準備中)。一方,Yチームの選手に対する質問紙調査から,Yチームの選手は,Xチームの選手に比べてより,指導者の働きかけを情報として活用できる(情意的に捉えない)態度がうかがえた(梅崎,2009)。このような相互行為的な指導の達成により,Yチームは成功を収めたものと考えられた(梅崎,準備中)。
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