筋核小体増加中に発現が増大する因子として、骨格筋肥大時における27kDa heat shock protein(HSP27)のリン酸化動態変化を追究した。ウィスターハノーバー雄ラットをコントロール群と後肢懸垂群に分け、後肢懸垂群には7日間の尾部懸垂を実施した。懸垂群のうち半分のラットは、懸垂終了後に懸垂を解除し5日間床上で回復させた。実験前または懸垂終了時、回復5日後にそれぞれの群からヒラメ筋のサンプリングを行った。これらの摘出筋をホモジナイズし、可溶分画および不溶分画に分け採取した。ウェスタンブロット解析の結果、Ser15またはSer85がリン酸化された1リン酸化HSP27が通常時にもヒラメ筋の可溶分画に多く発現しており、筋原線維分画にはほとんど発現は認められなかった。後肢懸垂による筋萎縮時にはこれらのリン酸化HSP27発現は減少する傾向にあったが、回復中の筋肥大時には特にSer15がリン酸化されたHSP27の発現が増大し、筋原線維分画への顕著な移行が認められた。同時に2リン酸化HSP27発現も増加した。更に、可溶分画においてリン酸化HSP27抗体を用いた免疫沈降を行ったところ、筋肥大時にはミオシン軽鎖タンパク質との共沈量が減少することも分かった。さらに、HSP27キナーゼ遺伝子に対するアンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチドまたはどの遺伝子とも相補性のないアンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチドをヒラメ筋中に注入した状態で、上述と同様の実験を実施し、キナーゼ遺伝子発現抑制が筋線維サイズ変化に及ぼす影響を組織化学的に評価した。アンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチドが残存している筋線維では、7日間の後肢懸垂による筋線維萎縮の程度にはコントロールアンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチドとの差が見られなかったが、5日間の回復後には有意な肥大抑制が認められた。以上の結果から、HSP27は筋原線維構成タンパク質と分子複合体を形成し、筋肥大時にはリン酸化を受け筋原線維部へ移行し筋原線維の構築に関与していることが示唆された。
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