本研究の目的は、高齢期の安全なトレーニング方法開発の一環として、一過性の筋への血流制限の筋萎縮防止効果の明確な分子メカニズムを解明することである。C2C12筋芽細胞を用いて、酸化ストレス負荷によるin vitroの廃用性萎縮モデルにおいて実験を行った。低酸素刺激後30分、3時間後にmRNAを抽出し、骨格筋特異的ユビキチンリガーゼMuRF1、atrogin1の発現を調べたところ、酸化ストレス・低酸素の各刺激により30分後よりMuRF1の発現の上昇がみられたが、過酸化水素・低酸素の共刺激によりMuRF1の発現は著明に抑制された。一方、atrogin1の発現は、過酸化水素の刺激により30分後変化が見られなかったが、低酸素刺激、過酸化水素・低酸素の共刺激では発現レベルが基礎値より低下していた。3時間後においては、過酸化水素・低酸素の各刺激によりMuRF1、atrogin1の発現の上昇がみられたが、共刺激による発現の抑制はみられなかった。これらの結果によって、一過性の低酸素による刺激は、MuRF1やatrogin1の発現を減少させ、骨格筋萎縮に予防的に働くことが予想された。更なる検討のため、短時間(30分)低酸素刺激し、24時間後の筋管細胞の直径の測定を行った。その結果、コントロールと比して、酸化ストレスのみでは直径の減少が見られたが、低酸素刺激を30分間加えることにより直径の減少が抑制された。 今後は、上記の系を用いてこの現象に係るシグナル伝達経路を解明する予定である。また、マウス大腿オクルーダーを作成し、マンシェットを用いたin vivoのモデルを作成しており、in vitroのモデルと合わせ妥当性を確認している。本研究からもたらされる結果は、新規の骨格筋萎縮メカニズムの発見に繋がる可能性も期待され、将来の超高齢化社会において極めて重要な知見をもたらすものと期待される。
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