本研究の目的は、生体内のエネルギー代謝において、解糖系代謝と酸化系代謝を結ぶ乳酸の代謝調節を解明することである。そこで、乳酸を細胞の内外へ輸送するタンパク質に注目し、このタンパク質(MCT)が何によって増減するのか、その適応のメカニズムについて検討を行った。さらに、細胞膜に存在するMCTについてだけではなく、ミトコンドリア膜にMCTが存在するのかについても分析を行った。この点において、本研究は非常に独創的であり、かつ学術的にも重要性が高いものであるといえる。 実験結果から、1)MCTがミトコンドリアに局在する可能性が示唆された。また解糖系の活性化によって、1)細胞膜のMCTは増加する、2)ミトコンドリアのMCTも増加する可能性が示唆された。これらの結果から、ミトコンドリアにMCTが存在すれば、生体は解糖系と酸化系とをより効率よく連携させることが可能であるといえる。加えて、解糖系の終末物質である乳酸が、生体内において新たな意味を持つ可能性が示唆された。それは2つのエネルギー代謝系を結ぶ重要な役割をもつということである。本研究によって、生体の代謝を調節する細胞膜タンパク質について、その適応変化の一部が解明された。この基礎的な研究結果は、我々がより健康に生きるうえで、懸念されているエネルギー代謝の諸問題と関連付けることができる。それらは、栄養摂取、運動(療法)、さらに生活習慣病といった身近な問題である。この点において、本研究は非常に重要な意義をもつものであると考えられる。
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