研究概要 |
本研究では,高所順化の個人差の背景にある生理的機構としてストレス反応性の違いに着目し,1)高所順化時におけるストレスホルモン動態および血液性状変化の関係性について検討し,2)その際に発現が変化する遺伝子群について探索することを目的とした.今年度は,1)・2)を検討する上で,a)ストレス・造血反応が顕著に見られるモデル構築と,b)候補となる遺伝子群を探索する実験を行った。 a)実験モデルの検討:低酸素環境下における個人差を検討する上で最も効果的なモデルを探るため,(1)低酸素環境下に12時間曝露した場合,(2)低酸素環境下で1時間運動した場合の2条件でストレス反応・エリスロポエチン(EPO)分泌などの造血反応について検討した。結果,(1)の実験条件において特にEPO分泌において,その反応性が顕著に異なること(曝露前に比べて分泌レベルが80-200%増加)が示された。ストレス反応に関しては両条件においてもストレス反応に変化が認められたものの,1回の低酸素曝露による顕著な個人差は認められなかった。先行研究では,EPO反応性の違いでトレーニングにおけるパフォーマンスの違いが報告されている。このためEPO反応性が顕著に異なる(1)の実験モデルで例数を増やし,詳細な実験を行うことが有効であると考えられる。1回の低酸素曝露ではストレス反応に個人差は認められなかった。これは,急性の低酸素曝露によるストレス反応はヒトの普遍的な生体反応として位置づけられており,個人差を検証する場合は,さらに慢性的な低酸素環境(トレーニング等)での検討が必要であることを示唆している。 b)候補となる遺伝子群の探索:(1)の条件下で最もEPOの反応性が高かった被験者3名において,そのプロフィールを分析した。今年度はそれに基づいて低酸素曝露後の遺伝子発現だけでなく,その前(安静状態)でも低酸素感受性を予測できるかどうかについても検討する。
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