本研究では、高所順化の個人差の背景にある生理的機構としてストレス反応性の違いに着目し、1)高所順化時におけるストレスホルモン動態および血液性状変化の関係性について検討し、2)その際に発現が変化する遺伝子群について探索することを目的とした。今年度は、前年度1)・2)を検討する上で構築したモデルを基に、a)低圧低酸素環境下での各種生理指標の変化とb)その生理応答の個人差の背景となる遺伝子発現変化について検討した。 a)低圧低酸素環境下での各種生理指標の変化:(1)成人男性20名を用いて、低圧低酸素曝露の前後で低酸素換気応答、肺動脈圧、動脈酸素飽和度などの生理指標と、ストレス反応(コルチゾール・成長ホルモン応答など)・エリスロポエチン(EPO)分泌などの造血反応について検討した。結果、低酸素環境と同様に、エリスロポエチン分泌が増加し、成長ホルモン分泌応答にも同様の傾向が認められた。その際、低圧低酸素曝露前後において、肺動脈圧・成長ホルモン分泌応答の反応性が個人間で顕著に異なっていた。この反応性の違いをもとに、最も反応性の高い被験者2名と、応答がほとんど認められなかった被験者2名を抽出し、遺伝子発現変化の違いについて検討した。 b)生理応答の個人差の背景となる遺伝子発現変化:低圧低酸素曝露前後で肺動脈圧および成長ホルモン応答が顕著に異なる被験者各2名を用いて、低圧低酸素曝露前後の遺伝子発現変化について網羅的に検討した。個人の遺伝子発現プロフィールの類似度をクラスタリング解析により検討したところ、低圧低酸素曝露前において、肺動脈圧・成長ホルモン応答が高かった2名の遺伝子発現プロフィールが他の2名と比較して近い関係にあった。これは、低圧低酸素曝露後の反応性の違いを、事前の遺伝子発現プロフィールから予測できる可能性を示唆している。どの遺伝子群に顕著な差が認められるかについて、現在詳細な検討を行っている。
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