研究概要 |
本研究では、高所順化の個人差の背景にある生理的機構としてストレス反応性の違いに着目し、その際に発現が変化する遺伝子群について探索することを目的とした。今年度は、19年度および20年度の結果をまとめ、候補となる遺伝子群を探索することを主な目的とした。 平成19年度実験のまとめ:低酸素環境下における個人差を検討する上で最も効果的なモデルを探るため、(1)低酸素環境下に12時間曝露した場合、(2)低酸素環境下で1時間運動した場合の2条件について検討した。結果、(1)の実験条件において特にEPO分泌において、その反応性が顕著に異なること(曝露前に比べて分泌レベルが80-200%増加)が示された。平成20年度では、低酸素曝露よりもより大きな内分泌反応・AMS反応が惹起されると考えられる低圧低酸素環境下での実験を行った。 平成20年度実験のまとめ:19年度の実験で得られたデータをもとに、低圧低酸素環境下における生体応答(内分泌反応やAMS反応、肺動脈圧変化)の個人差と低酸素換気応答(HVR)や遺伝子発現プロファイル変化との関係性について検討した。結果、低圧低酸素曝露前後において、肺動脈圧・成長ホルモン分泌応答の反応性が個人間で顕著に異なっていた。この反応性の違いをもとに、最も反応性の高い被験者2名と、応答がほとんど認められなかった被験者2名を抽出し、遺伝子発現変化の違いについて検討した。個人の遺伝子発現プロフィールの類似度をクラスタリング解析により検討したところ、低圧低酸素曝露前において、肺動脈圧・成長ホルモン応答が高かった2名の遺伝子発現プロフィールが他の2名と比較して近い関係にあった。 低圧低酸素環境下での反応性の違いを反映する遺伝子群の探索:低圧低酸素暴露後に肺動脈圧・成長ホルモン分泌応答が最も高い2名(Responder)と最も応答の低い2名(non-Responder)間で発現が顕著に異なる遺伝子群をピックアップした。その多くがreceptor関連の遺伝子であり、Arginine vasopressin receptor, Androgen receptor, G-protein-coupled receptor, olfactory receptorなどがあげられる。これらの機能的な意味は今後の研究で検討していかなくてはならない。
|