本研究では、高齢者における生活機能向上および転倒予防のための複合課題トレーニングの開発を目指し、初年度は高齢者の複合課題能力と生活機能、運動機能、認知・精神機能および転倒状況との関連性について分析した。本年度は複合課題トレーニングが高齢者の運動機能や生活機能に及ぼす影響を検討した。対象は養護老人ホームに入所している高齢者23名とし、トレーニング群とコントロール群とに対象者を分類した。対象者には研究の内容について十分に説明を行い、同意の下で測定を行った。トレーニング内容はコンピュータの画面上に写し出されるマーカーに視線をあわせて、そのマーカーを追いながら不安定傾斜板上で立位保持する課題とし、週2回の理学療法士の監視下でのトレーニングを9週間行った。その結果、トレーニング群において不安定板やバランスマット上での立位保持時間、最大随意重心移動距離に有意な効果がみられた。また練習を重ねるにつれて不安定板を素早く調節することが可能となった。しかし、Timed Up and Go testや5m歩行時間のような移動能力の改善にはつながらなかった。高齢者は不安定な状況下で素早く姿勢を調節することが困難となる。この能力が低下することで、転倒恐怖感や生活活動量が低下することが考えられる。よって不安定な状況下で姿勢を修正・保持するような複合課題トレーニングを行うことが重要と考えられた。
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