研究概要 |
疲労やストレスからの回復,もしくは仕事や学習における意欲の向上につながるような匂いを利用した「癒し」の「条件付け」「予期効果」の視点から,その神経内分泌学的メカニズムを検討することを目的にし,第一段階として,主な芳香精油の印象・疲労・ストレス回復,意欲向上効果を質問紙スタイルで調査し,芳香精油毎のデータベースを作成することとした。今後,効果が認められた芳香精油を対象に,香りによる条件付けを行った群,行わない群で,その前,1ケ月後で普段の意欲・疲労状況の調査,パソコン認知課題によるパフォーマンスの評定を行うとともに,睡眠の質が改善されたかについても解析する。女性20名と男性1名を対象とした。香りは16種類で,コントロールとして香り実験前の部屋の匂いについての評定も実施した。それぞれの香りを,被験者は2分間匂い,3分間の休憩中にVisual analogue scale(VAS)による疲労,ストレス,意欲の評価と香りの印象評価(好きな,快適ななど)をSD法で行った。主観的にみた快適感情を誘発し,かつ最も抗疲労効果がある香りは,柑橘類であった。しかしながら,自律神経系のバランスには,ペパーミント,ユーカリといった香りの方が,効果が高い可能性が示唆された。ペパーミント,ユーカリは,抗疲労効果も柑橘類に次ぐ高い効果があり,今後の実験に有効な香りであると考えられた。また,疲労と意欲は表裏一体の関係にあると考えられ,意欲を向上させる香りであることも重要要因であると考えられる。ただし,抗疲労の効果や香りの印象は,個人の好き嫌いに大きく影響される上に,その日の体調によっても左右される可能性が高い。また,今回は,前の香りによる影響を考慮してランダムに呈示していないが,呈示順序の影響はゼロとはいえないし,女性のみの結果でありかつ人数も20人足らずと十分とは言えない。しかしながら,今後の研究に有効な香りの抽出には十分なデータを得たものと考える。
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