研究概要 |
褐色脂肪細胞を標的とした肥満予防効果に関する研究は、ヒトの知見を含めて多くのデータが集積され始めている。これらの研究は、多くの場合、生体全体のエネルギーバランスを操作する事象が重要視され、褐色脂肪組織丸ごとのエネルギー消費容量を測定することができれば十分な成果が得られたものと推定される。しかし、組織を構成する脂肪細胞の不均一性があるため、生体のエネルギー状態に応じて変化する脂肪細胞の適応過程の本質を捉えるには不十分である。本研究では、褐色脂肪組織に含まれる脂肪細胞の細胞性応答について個々に検討し、その細胞の多様性を詳細に検討することにより、脂肪組織全体の機能変化を分子レベルで明らかにすることを試みる。 脂肪組織には成熟した脂肪細胞の他に前駆脂肪細胞が含まれている。前駆脂肪細胞はある程度の継代培養が可能であるとともに、培地に分化誘導因子(甲状腺ホルモン、グルココルチコイド、インシュリンなど)を添加することによって成熟脂肪細胞を得ることができる。本研究ではまず、調製が容易でしかも集団内での細胞機能の均一性が一定に保たれている培養脂肪細胞を用いてβAR刺激に対する熱産生を測定した。単一培養脂肪細胞の熱産生応答を解析するため、早稲田大学理工学術院で新たに開発されたミクロ温度計測法を用い、βAR作動薬添加後に変化する細胞の温度をリアルタイムで計測した。また、褐色脂肪細胞による熱産生を担うミトコンドリア脱共役タンパク質1(Uncoupling protein 1, UCP1)の活性を同時にモニターするため、膜電位感受性のミトコンドリア色素を細胞に前処理し、βAR刺激によるUCP1活性の変化を観察した。
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