血管は加齢とともに硬化していき、それは誰も避けて通ることができない。この加齢による動旅硬化は、心疾患や脳卒中といった死に繋がる生活習慣病の危険因子である。体力、特に全身持久力と動脈硬化との関連は数多くの知見があるが、体力の構成要素の一つである柔軟性と動脈硬化との関係を示した報告は皆無である。本研究は、1)柔軟性と動脈硬化度との関係を、2)柔軟性と加齢に伴う動脈硬化との関係を検討した。661名の成人男女を、20-30歳代、40-50歳代、60歳以上に分類し、それぞれの年代で低柔軟性群と高柔軟性群の計6群に分類した。40-50歳代、60歳以上において、低柔軟性群の動脈硬化度(baPWV)は高柔軟性群と比較して高値を示した(P<0.01)。また柔軟性と動脈硬化度との間には負の相関関係が観察された(P<0.01)。それに対して20-30歳代では、柔軟性による差や相関関係は観察されなかった。分散分析の結果、年齢と柔軟性は動脈硬化度に対して有意な交互作用を示した(P<0.01)。以上の結果から、1)中高齢者において、体が硬い(柔軟性が低い)と血管も硬い(動脈硬化度が高い)こと、2)柔軟性が低いと加齢に伴う動脈の硬化が促進される可能性が示唆された。本研究結果は、生活習慣病の観点からは注目されてこなかったこの柔軟性体力の新しい可能性を示した。今後は、中高齢者を対象に柔軟性を向上させるストレッチング介入が動脈硬化度に及ぼす影響を検討し、柔軟性体力と動脈硬化の因果関係を明らかにしていく予定である。
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