研究概要 |
血管は加齢とともに硬化していき、それは誰も避けて通ることができない。この加齢による動脈硬化は、心疾患や脳卒中といった死に繋がる生活習慣病の危険因子である。体力、特に全身持久力と動脈硬化との関連は数多くの知見があるが、体力の構成要素の一つである柔軟性と動脈硬化との関係を示した報告は皆無である。2007年度は、健康成人男女約600名を対象に横断的研究デザインを用いて、1)中高齢者において、体が硬い(柔軟性が低い)と血管も硬い(動脈硬化度が高い)こと、2)柔軟性が低いと加齢に伴う動脈の硬化が促進される可能性を示した。2008年度では、64名の健康成人男女(年齢 : 30-64歳)を対象に、1年間のストレッチングを含む身体活動増加支援を行い、柔軟性と動脈硬化度との関係を縦断的に検討した。1年間の介入の結果、柔軟性は約5%有意に増加した(P<0.001)。身体活動量においては、歩数は有意な変化を示さず、活動強度を含む身体活動量(METs・時)は、約25%増加した(P<0.001)。しかしながら、動脈硬化度(baPWV)には有意な変化が観察されなかった。介入前後における、身体活動量および柔軟性の変化量と動脈硬化度の変化量の関係を検討した。動脈硬化度の変化量と身体活動量の変化量との間には有意な相関は観察されなかったが、柔軟性の変化量との間には有意な負の関係が観察された(r=-0.34, Y=-9.0X+16-3, P<0.01:Y=動脈硬化度, 准柔軟性)。この結果は、柔軟性が10cm向上すれば、動脈硬化度は約90cm/s低下することを示している。本研究で測定した動脈硬化度の加齢に伴う増加は10歳で約100cm/sであるため、本研究結果は、柔軟性10cmの増加は血管年齢を約9歳若返らせる可能性を示唆した。本研究は生活習慣病予防に関する柔軟性体力の新しい側面を提示した。
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