近年、睡眠障害の増加やメンタルヘルスの低下が社会問題になっており、自分の睡眠状態やメンタルヘルスを簡易に計測する手法が期待されている。本研究では、睡眠状態を評価する指標として「睡眠の質」に着目し、日常生活における生理信号を統合的に解析することで睡眠の質を定量的に評価するシステムを開発することを目標とした。さらに、開発したシステムをうつ病の早期発見システムへの応用を目指した。 今年度は、(1)非侵襲ウェアラブル生体信号計測装置(SenseWearPro3Armband、BodyMedia社)を用い、健常者2名、操うつ病患者1名、統合失調症患者10名、神経症患者1名に対し、日常生活における生理信号(熱流束、皮膚表面温度、皮膚周辺温度、皮膚電気伝導度、加速度)をのべ2000日以上計測した。(2)メンタルヘルスの低下によって、睡眠全体の質が変化するだけでなく、単位時間当たりの睡眠の質や、その変動にも変化が現れると考えた。そこで、睡眠を90分ごとのセクションに分割し、セクションごとに睡眠の質得点(S-SQS)を算出した。さらに、S-SQSの変動を3パターンの標準SQS変動パターンと、それ以外の非標準SQS変動パターンに分類し、標準SQS変動パターンとなる睡眠の割合を標準SQS変動率と定義した。(3)これまでに計測したデータおよび新規に計測したデータに対し、S-SQSおよび標準SQS変動率を算出した。その結果、健常者の標準SQS変動率(平均39.6[%])よりも、うつ状態の被験者の標準SQS変動率(平均21.8[%])の方が低いことが確認された。また、同一被験者(うつ病患者)であっても、うつ状態が強いうつ期と、うつ状態が軽い非うつ期を比較すると、非うつ期よりうつ期の標準SQS変動率が低いことが確認された。さらに、同様の変化はうつ病患者に顕著に現れ統合失調症患者には現れなかった。以上より、本研究で提案した標準SQS変動率がうつ状態の強さを表すことが示唆された。
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