研究概要 |
高等教育機関では魅力あるカリキュラムの開発と同時に,科目間の履修依存関係や履修モデルを整理する取組が行われている.しかしカリキュラムの全体像を把握し,学習者に分かりやすく表現・提示するのは専門知識と労力のかかる困難な仕事である.そこで本研究では,自然言語処理技術とネットワーク分析の手法をシラバスのテキストデータに適用することで,科目間および教授される概念間の相互規定関係を抽出・利用し,カリキュラムの構造を分かりやすく可視化・提示する手法を開発した. 本手法ではカリキュラムの構造を「シラバス-専門用語ネットワーク」として抽出する.用語=概念間の関連を累積して,シラバス=科目間の先修-後修関係が抽出される.また,ネットワークにおける科目および概念の位置付けから,当該カリキュラムにおけるそれらの中心性および専門性を評価し,平面上での科目間関係の可視化に用いる.情報処理学会が提供しているコンピュータサイエンスのモデルカリキュラムをテストデータとして開発手法を適用し,提供元が提示しているカリキュラム構造と,開発手法が与えるカリキュラム構造との一致度合いを定量的に評価した.その結果,用語間関係として語基の包含に基づくものを利用するだけでも一定の構造再現性は得られるものの,用語間の意味的関係を加えることで提案手法の性能はより向上することが示された.また,シラバス-専門用語ネットワークの特性を定める要因-具体的には,専門用語スコア関数,用語の専門性や中心性の評価に用いるネットワーク指標,用語のスコアからシラバスのスコアへの変換,等-を-通り定式化・実装して結果を比較し,カリキュラム構造の抽出に有効な設定の組み合わせを絞り込んだ.他方で,専門用語による位置付けが困難なリテラシ科目や,初等的概念から高度に専門的な概念までを通覧する概論的科目など,開発手法のみでは対応が困難な部分も明らかとなった.
|