研究実施計画に基づき、5月にイギリス・ケンブリッジ大学で、7月にはロンドンの大英図書館を中心に、それぞれ資料調査をおこなった。これらの資料調査を進める中で、19世紀のイギリスの電磁気学を評価する上では「感覚」というキーワードが極めて重要であることがわかった。 「感覚」はジョン・ロック以来、物質の性質を「一次性質」「二次性質」「力能」に分類して理解する上でのキーワードとなっている。これらの性質は、それぞれ力学、物理学(音、光、熱など)、および電磁気学と化学という学問分野を分類する上での基準にもなっている。ただし、電磁気学は当時の最先端科学であり可感な運動の学である力学と可能ではない運動の学である化学との中間に位置していた。そのため、電磁気学研究に対するアプローチには、可感な世界の原理で進ようとする力学側からの研究と、可感な世界の原理とは異なる原理であることを想定する化学側からの研究があった。前者の研究が、力学的モデルを応用しようとするトムソンやマクスウェルの方法であり、後者が力線を導入しようとするファラデーの方法である。これらの研究が19世紀中葉から互いに歩み寄って影響しあうことで、電磁気学は形成されたと言える。 本研究では、上記のように、力学的モデルや科学の階層的分類が「感覚」と結びつけて理解できることを明らかにし、それを実験機器研究に結びつけるよう考察を進めている。この成果の一部は、平成21年5月の科学史学会で発表され、同内容を詳しく論じた論文を執筆中である。また、この学会発表および論文はファラデーに焦点をあてたものになったため、続いて、トムソンやマクスウェルの力学的モテルの議論と数学との関係に焦点をあてたもの執筆する予定である。
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