鳥類の学術標本の製作技法について明らかにするためCTを用いで標本内部を精査し、内部構造を立体化する方法を確立した。鳥類標本の製作技法は現存する標本などから1860年代にブラキストン(T. W. Blakiston)らによって持ち込まれたと推定される。平成20年度は北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園に所蔵されているブラキストン標本を中心にCTスキャンを行い、それらのCT画像を元に内部構造を立体化して比較し、日本に持ち込まれた標本の製作技法を検討した。ブラキストン標本の中にはブラキストンが製作した標本と福士成豊やプライヤー(H. Pryer)といった採集者らが製作した鳥類標本が残されている。これらについてもCTスキャンを行い、その製作技法をブラキストンのものと比較した。その結果、細かい内部構造や残された骨の形状や使用されていた薬品には製作者によって特徴が見られたが、国内に持ち込まれた製作技法は今日欧米で用いられている方法とは異なり、芯を用いない比較的簡便に標本を製作する方法であった。その後、針金の芯を用いて標本の姿勢を整える製作技法が日本人によって用いられるようになり、国内では広く用いられるようになったと考えられる。今日、芯を用いない製作技法では標本を研究に用いる際に計測などによって破損を起こしやすく、長期にわたる保存には不適切である。このため学術標本については木芯を用いた欧米式の製作技法がもっとも簡便で保存に適した方法であると考えられる。
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