研究概要 |
本研究の目的は,最終氷期以降に陸化していない沿岸海底下の地層(中期更新世〜完新世)中の地下水の地球化学性状を明らかにし,海水準変動による環境変化に伴う沿岸域の地下水・溶存物質の挙動の変化を理解するための基盤情報を得ることにある.具体的には,東京湾の最奥部に位置する東京港内の埋立地を対象として,第1に地質に関する既存資料を精査して地質構造ならびに海水準変動に伴う環境の変化を整理した.第2に,整理した情報に基づいて掘削地点を決定し,オールコアボーリングを実施して地質・地下水試料を採取した.採取した地質試料を用いて各地層の堆積環境を把握するとともに,地下水の地球化学性状を把握した.既存情報ならびにコアボーリング調査結果に基づき,地下水からみた本研究対象層の海水準変動に伴う環境変化は以下のように整理された.中期〜後期更新世の地層は基底部を除いて海成層であるが,最終氷期には海水準の低下に伴って陸地化した.この時期に,これらの地層内は降水の浸透による淡水化作用を受けた.また当該地域の周辺には,古東京川や古神田川などによって形成された谷地形が発達し,この過程でこれらの地層が浸食・削剥され,周辺地域との水文地質学的な連続性が断たれた.その後,海水準の上昇に伴って海成層が広く堆積した.このような環境変動から,当該地域における中期〜後期更新世の地層は最終氷期以降は海面下にあり,周辺地域からの淡水地下水の供給もないと考えられた.一方ボーリング調査結果から,これらの地層中に,降水を起源とする地下水が現在も賦存することが明らかとなった.本研究の結果は,海底下における淡水地下水の塩水化プロセスや,地下水利用に伴う海水浸入プロセスの理解に大きく寄与するものである.
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