研究概要 |
南極氷床コアには塩微粒子をはじめとするダストが含まれており, 約70万年間の古環境を知る上で重要な指標となっている. 中でも塩微粒子は水に溶解するため, 氷床中の塩微粒子の種類や量の変動を調べるには氷床を融解せずに検出できる方法が必要となる. これまでに顕微ラマン分光法による研究が報告されているが本課題では発光計測(熱ルミネッセンス法)を用いて氷中のダストの検出を行うことを提案した. 昨年度の硫酸塩と硝酸塩で発光色が異なるという結果に基づき, 本年度は熱ルミネッセンスの発光スペクトルを計測できる装置を開発し, 南極に存在しうる塩の熱ルミネッセンス分光計測を行った. 計測に使用した試料は,試薬をそのまま試料としたものと合成したもの(水和数が違うため合成が必要となった)を用いた. 計測後, 氷と塩試料の発光強度, 発光温度, 発光波長を考慮したところ, 約40種類の塩試料の計測から, 南極氷床コア試料においても計測可能な塩試料は, (1)硫酸塩(CaSO_4・2H_2O, Na_2SO_4・1OH_2O, K_2SO_4), (2)塩化物(MgCl_2・12H_2O, KCl, NH_4Cl), (3)炭酸塩(CaCO_3, Na_2CO_3・10H_2O, K_2CO_3), (4)メタンズルホン酸塩(Mg(CH_3SO_3)2)の10種類が観測可能であることが判明した. なかでも硫酸ナトリウム10水和物は発光を示すが, 硫酸マグネシウム11水和物は発光を示さないことから, ラマン分光で見分けにくいこれらの塩微粒子の判定に使える可能性と, 氷期に増加する硫酸カルシウム2水和物の量の変動を計測できる可能性があることがわかった.
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